Doingモードは、未来を思い描き、行動して形にしていく“人間らしい力”です。家事や仕事といった小さな一歩から、創造や挑戦まで、日常のほとんどはこのモードが支えています。
Doingを動かすのは脳の報酬系で、前頭前野がそのエネルギーの向きを舵取りしています。内側の願いへ向かえば、Doingは喜びと創造性を生みますが、承認や比較へ向かえば、苦しさや消耗につながります。大切なのは努力量ではなく、“どこへ向かっているDoingなのか”に気づくことなのです。
僕たちには三つのモードがある
僕たちには、生き方の“3つのモード”があります。ハンドレッドアカデミーでは、分かりやすく次のように定義をしています。
・Survivalモード
→ 生き延びるために身を守る状態(扁桃体:恐怖センサー)
・Doingモード
→未来を思い描き、行動して形にする状態(前頭前野:報酬系と創造力)
・Beingモード
→評価や比較を手放し、安心につながる状態(いのち全体)
Survivalモードが命を守り、Doingが命を広げ、 Beingモードは命そのものに戻る。
どれか一つが正解なのではなく、必要なときに必要なモードへ切り替えながら僕たちは生きています。
この循環こそ、人間らしさなのです。
Doingモードとは、より良く生きようとする力
Doingモードは、自己実現や創造のためのエネルギーです。
仕事、育児、家事、看護、介護、学業。
日常のほとんどはDoingで成り立っています。
洗濯物を回す。返信をする。今日をなんとか終える。
それらはすべて、立派なDoingです。
Doingモードを担う脳の前頭前野は、計画、選択、判断、実行といった「未来に向かって動く力」を生み出します。だからDoingは、僕たちが明日を生きるための大切な機能なのです。
しかし社会の中では、Doingがいつの間にか
“評価されるためのDoing”に置き換わることがあります。
本来Doingは、自分を表現する力。より良い未来を切り開く力です。
けれど、外側(他者)の基準に合わせようとすると、Doingは自分を守る鎧になってしまいます。
Doingが創造へ向かうとき、 喜びはプロセスに宿る
Doingが自分の内側の願いに向かうとき、人は見違えるほど生き生きとします。
知りたい。つくりたい。届いてほしい。
好奇心。創造と想像。利他的な行為。
結果より、その過程そのものが喜びになります。このようなDoingを“創造的Doing”と呼んでいます。
文明・文化・アート・科学。
僕たちの世界は、無数の創造的Doingの積み重ねでできています。
車も、飛行機も、家具家電も、スマホも、AIも、すべてはDoingモードの人たちから生まれました。人間の創造力に限界がないのは、より良い未来を夢見て、Doingを追求してきた結果です。
創造的Doingは、自分と世界をつなぎ、「生きている実感」を育てる力になります。
Doingが承認へ向かうとき、 苦しさが生まれる
しかし、Doingが自分の外側ばかりへ向かうと話が変わります。
認められたい。負けたくない。好かれたい。成功していると思われたい。このような想いばかりが強調された状態を、“承認的Doing”と呼んでいます。
そのDoingは結果を手に入れても、すぐに次のハードルが現れます。
しかも現代は、成果・ランキング・SNS・数字が可視化される“承認的Doing依存社会”。
比較しやすい世界は、Doingを過剰に加速させます。
その瞬間、前頭前野ではなく扁桃体(恐怖を感知する原始脳)がDoingを動かし始めます。
「やめたら危ない」「役に立てなければ存在できない」と感じてしまうからです。
だからこそ多くの人が経験します。
理由は分からないけど、疲れている。
本当は頑張っているのに、努力が足りない気がする。
それはあなたが弱いからではありません。
脳があなたを守ろうとしているだけなのです。
Doingを動かす脳の報酬系 /方向がすべて
Doingモードののエンジンになっているのは、脳の“報酬系”と呼ばれる仕組みです。
報酬系とは、うれしいこと・達成・前進を感じたときに働き、「またやってみよう」と行動を促す脳内の回路のこと。
ここで中心的な役割を果たすのが、ドーパミンという神経伝達物質です。
つまり、“より良い未来を想像し、行動を起こす”ための脳の仕組みがあるんです。そして、このエネルギーの向きを舵取りしているのが、前頭前野(おでこのあたり)と呼ばれる部分です。
未来を描き、優先順位を決め、言葉や感情を整理し、意味のあるDoingへと変えていく“人間らしさを司る脳”なんです。
大切なのはドーパミンの量ではなく“向かう方向”。
創造的Doingでは、ドーパミンは自分の内側へ向かいます。
自分の願いに沿っているため、そのプロセスが力になります。
承認型Doingでは、ドーパミンは自分の外側へ向かいます。つまり、他者の視点を介した自分。認められたい。愛されたい。
それらは満たされてもすぐ消えるため、次を求め続けます。
創造的Doingも、承認的Doingも、同じ脳の仕組みです。なのに、経験する体験はまったく違ってくる。
だからDoingの鍵は“努力そのもの”ではなく、そのエネルギーをどこへ向けるか、なのです。
3つのモードは循環して、僕たちを支えている
僕たちは、ひとつのモードで生きているわけではありません。
日々の状況や心の状態に合わせて、Survivalモード・Doingモード・Beingモードを行き来しています。
「今日をなんとか乗り切りたい」――そんなときは、Survivalモード。
「少しでも前に進みたい」――その背中を押すのは、Doingモード。
「深呼吸したい。安心したい」――そこにあるのが、Beingモード。
どれも必要で、どれも人間らしい。
Survivalモードがあるから踏ん張れるし、Doingモードがあるから人生は動き出す。
でも、ずっとその2つで頑張り続けると、心が息切れしてしまう。
だから時々、Beingモードに戻る。
休んだり、ぼーっとしたり、好きな人と過ごしたり。
何もしない時間が、次の一歩を静かに育ててくれる。
大切なのは、“いまの自分を責めないこと”。
Doingばかりの日があってもいいし、Beingしかできない日があってもいい。
Survivalに精一杯のときだって、ちゃんと生きてる。
3つのモードは、選ぶものではなく、気づくもの。
「あ、今わたしはこういう状態なんだな」
その小さな理解が、自分をやさしくしてくれます。
僕たちは、3つのモードを循環させながら生きている。
その揺らぎこそ、人間らしいリズムなのです。


