好きなことをしごとにする。好きなことで生きていく。実現できれば素晴らしいですが、なかなか一歩を踏み出しにくい世界です。
でも、僕はここを目指して8年間走ってきました。自分に正直になり、自分の好きを追求していく。そんな世界を夢見て、自分なりに「暮らし」をつくり、その延長線上に「しごと」が生まれたのです。挑戦してよかったと心から思っています。
かつての僕は、失敗を恐れて毎日をただ耐えるだけの人生でした。
いい学校、いい会社、お金、肩書き、家、車。一般的な教育を受けた僕は、このような「理想の人生」みたいなものを手に入れるレールを疑問を持たずに走っていました。でも、僕は本当は気づいていました。僕にはそんなものは必要ないのです。ただ、自分自身を偽らずに正直でありたいと、それだけが願いでした。
僕の場合、何の計画もなく仕事を辞めて自給自足や創作の世界へと飛び込んでいきました。勢いだけではどうにもならずにとても苦しみましたが、今ではなんとか形になったのです。もちろん僕だけの力ではなくて、僕の取り組みを形にして会社にまで成長させてくれたのは、妻のおかげです。
好きを探求し、しごとにする。これを実現させるためには考え方やコツを、感覚的につかんでいくことがとても大切だと思うのです。頭だけで理解するのではなく、心と体を使って体得していく必要があります。

しごとは、大きく分けて2種類あると僕は考えています。
〇お金を稼ぐ手段。先に需要を確認して、サービスをつくる。
〇好きを探求していたら、それが人の役に立つようになる。
一般的には、「しごと=お金を稼ぐこと」と考える人が大半だと思います。当たり前すぎて議論の余地もない、そんなふうに思うかもしれません。
だから、「しごとをつくりたい」と考えたとき、まず「何が稼げるか」に目が向いてしまうと思います。つまり需要を確認して、その枠に自分を合わせていくやり方です。

お金を稼ぐという意味では最短ルートかもしれないですが、僕はあまりお勧めはしません。遠回りでもいいので、自分の好きを探求する方向に舵を切るほうが良いと思っています。
僕自身も、最初の方は「自分の好き」に全く関係のない普通の商売をしていました。商品を仕入れて、売るの繰り返しです。ビジネス的な感覚は養えますが、それ以外は何も残りません。それよりは、最低限のアルバイトでもしながら「好き」に全集中したほうが良いと思うのです。僕の経験上、違和感を感じるしごとは長くは続きません。稼げなくなった瞬間にそのしごとを捨てると思います。そうなると、費やした時間がとてももったいないのです。

一方、今の僕たちの暮らしの大半はお金にはなりません。家庭菜園、モノづくり、生ごみコンポスト、家事、発酵食づくり、などは自分の暮らしのためだけに取り組んでいます。

普通、お金を稼いで衣食住を買うのが一般的ですが、僕の場合は「お金」を介さずに直接衣食住をつくります。これは、「見えないお金」を稼いでいることと同じだと僕は思っています。衣食住のすべてをお金で買う場合、生涯でかかる費用は莫大です。僕の暮らしでは、それらにかかる費用が大幅に下がっています。家も、自分で直しながら住むのが楽しいので古民家を借りて住んでいます。
ただ、「間接的にお金を稼いでいる(生活コストが下がる)」というのはあくまでも結果論でして、僕はそのような損得はあまり重要視していません。「やりたいから、やる」に気持ちを全振りしています。

例えば僕たちが取り組んでいる「生ごみコンポスト」は、お金すら関係ありません。これは、家庭で出る生ごみをたい肥(肥料)に変える取り組みです。僕たちが年間にたい肥化する生ごみの量はおよそ200Kg。僕たちの家庭だけでも200Kg分のゴミを燃やす必要がなくなるのです。小さな取り組みなのですが、気候変動に対する僕たちなりの対抗策です。生ごみコンポストは誇りをもって取り組める僕のしごとです。何より、生ごみをゴミ出ししなくていい生活はとても心地が良いです。ゴミ出しの苦痛が大幅に減ります。なので、1円にもならなくても生涯続けるつもりです。

あるいは、僕たちが販売している植物鉢POTOCOの例。これは、元々は植物好きな妻と一緒につくった趣味のモノづくりです。妻はいろんな観葉植物を育てているのですが、なにぶん家の敷地が広くないので困っていたのです。

そこで、陶器制作に興味があった僕が手のひらサイズの小さな鉢を作ってみたところ、これが我ながら素晴らしい出来栄え。欲しいと言ってくれる人が増えて、販売になったのです。制作を始めてから売り始めるまでに3年。ある程度売れるようになるまで5年以上かかっています。好きでなければ続けられません。陶器は完全独学の独特な方法で制作していますので、このような陶器鉢は僕たち以外ではなかなか作れません。僕たちしかつくれないというのは、何よりも大きな強みなのです。

モノづくりカフェmioriも自然発生的に生まれたもので、需要を狙ってつくったものではありません。まず、POTOCOを本格的に制作できる場所が欲しかったのと、僕たちのモノづくりを教えてほしいという人が増えたのと、なんとなく人が集まれる場所をつくりたいというフワフワした気負いのない気持ちでつくったのです。

僕の経験上、好きなことを形にして人の役に立てるまでにかかる期間は5年。早くても3年。興味・関心や好奇心は、実体験からしか生まれてきません。お金になるとかならないとか、何も関係なく「やりたいことをやる」と決断するのが、僕のおすすめです。たとえ1円にすらならなくても立派なしごとがあるのです。家族のために料理をつくったり、子育てをしたり、それらはたとえ無償でも偉大なしごとだと思います。
どんな結末を迎えようとも、自分が納得できること。大げさに言うと、寿命がきて死ぬ瞬間に、やってよかったと思えること。あなたはそこに集中すべきで、その勇気を持つことを僕は願っています。