根粒菌とマメ科の共生/肥料なしで土に栄養を増やす方法

自然デザイン学

命の体には、窒素が必要

植物も人も、命の材料の中には「窒素(ちっそ)」があります。
葉や茎、実のもとになるたんぱく質やDNA、酵素。
そのどれにも、窒素は欠かせません。

だから家庭菜園では、野菜がよく育つように「チッソ・リン酸・カリ」の肥料を与えます。
なかでもチッソは、植物の成長を左右する大切な栄養素。
緑の葉をつくり、根をのばし、光を受けて命を循環させる力を生み出します。

でも、意外と知られていないことがあります。
私たちが畑にまいているその窒素肥料のほとんどが、外国から来ているということです。

日本の肥料は、海外の資源でできている

化学肥料の多くは、天然ガスを原料にしてアンモニアを合成してつくられます。
その原料のほとんどを、日本は輸入に頼っています。
つまり、私たちが食べている野菜や穀物は、見えないところで海外の資源に支えられているのです。

もし世界の物流が止まれば、肥料も届かなくなる。
畑の栄養が止まるということ。
自分の足もとで土を耕していても、実は遠い国のエネルギーを借りている。
そう考えると、「ほんとうの自給」とは何かを考えたくなります。

その答えのひとつが、「自然の力で土の中に窒素を生み出す方法」。
その仕組みを支えるのが、小さな微生物、つまり根粒菌(こんりゅうきん)です。

根粒菌はなぜすごいのか

空気の中には窒素がたっぷりありますが、そのままでは植物は利用できません。

空気中の窒素分子(N₂)は、とても強い結びつきをもった安定した形だからです。

根粒菌は、その窒素を「アンモニア(NH₃)」に変えることができます。

この反応は“窒素固定”と呼ばれ、根粒菌がもつ酵素ニトロゲナーゼがその役割を果たします。
電気も燃料も使わず、太陽の光を受けて育つ植物の根の中で、静かに起きている自然の化学反応です。


根粒菌は、マメ科の植物の根の中に住んでいます。
だいず、えだまめ、えんどう、そらまめ、いんげん、クローバー、レンゲなど。
どれも家庭菜園で育てやすい植物たちです。

根にできる小さなコブ――それが「根粒」です。
そこに根粒菌が住み、植物から光合成でつくられた糖を受け取り、
かわりに空気中の窒素をアンモニアに変えて植物に渡します。

けれど、根粒菌やマメ科植物は“他の植物のために”窒素を生み出しているわけではありません。
あくまで、自分が生きるために必要な栄養をつくり出しているのです。

では、なぜその窒素が畑全体に広がるのでしょうか。
それは、植物が枯れて分解されるときに起こります。
根や茎、葉が土に還る過程で、根粒菌が生み出した窒素が有機物として土壌に残り、
やがて微生物の働きによって他の植物も使える形に変わっていくのです。

根粒が見える土、見えない土

おもしろいことに、肥料をたっぷり与えた畑のマメ科の根を掘ってみても、
根粒がほとんど見えないことがあります。
それは、土の中にすでに窒素が十分あると、植物はわざわざ根粒菌を住まわせる必要がないからです。

一方で、自然の草地に生えているクローバーの根をそっと掘ってみると、
小さな粒々の根粒がいくつも見えることがあります。
肥料に頼らず、菌と力を合わせて生きている証。
そこには、自然が持つ「助け合いのしくみ」が、目に見えるかたちで現れています。

家庭菜園でできる“共生のデザイン”

家庭菜園で、できるだけ自然の力でチッソを増やすにはどうすればいいでしょうか。
答えのひとつが、マメ科植物を植えることです。

マメ科の根には根粒菌がすみつき、空気中の窒素を植物が使える形に変えます。
けれど、これだけでは土全体にチッソが行きわたるわけではありません。
根粒菌やマメ科の植物は、自分自身が育つために窒素を取り込んでいるからです。

では、どうすれば畑全体にその恵みを広げられるのか。
その鍵は、“植物の終わり方”にあります。

収穫が終わったあと、根ごと引っこ抜いてゴミとして捨ててしまうと、
根粒菌がつくった窒素も一緒に失われてしまいます。
けれど、根をそのまま残して枯らすか、根元から茎を切って土の上に敷いておくと、
時間をかけて根や茎が分解され、窒素が土の中にゆっくりと溶けていきます。

・根を抜かずにそのまま枯らす。
・根元から茎を切って、茎葉を土の上に敷く。
・あるいは、軽くすき込んで分解を待つ。

こうして「いのちをゴミにしない」循環をつくることで、
肥料を足さなくても、畑の中に小さな栄養の流れが生まれます。
自然の仕組みは、急がず、静かに、確実に動いているのです。

・春〜夏:だいず、えだまめを植える。
・秋〜冬:えんどう、そらまめを育てる。

クローバー草生

実はクローバーもマメ科の植物です。
果樹園などでは「クローバー草生」と呼ばれ、木の根元にシロクローバーを植えて、土を覆いながら自然にチッソを補う方法として知られています。

繁殖力が強いので、家庭菜園では敬遠されがちです。
地面をあっという間に覆ってしまい、野菜の芽を日陰にしてしまうこともあります。
でも、うまく共生のバランスを保てば、クローバーはとても頼もしい味方になります。

僕のガーデンでは、野菜とクローバーをあえて同じ場所で育てています。
クローバーの根には根粒菌がすみ、空気中のチッソを取り込んで、それが枯葉や根の分解を通じて、ゆっくりと土に戻っていきます。
だから、肥料をたくさん足さなくても、少しずつ土のチッソが増えていくのです。

ただし、広い畑全体でやると、クローバーの勢いをコントロールするのが難しくなります。
草丈が低いとはいえ、あっという間に広がり、他の作物のスペースを奪ってしまうこともある。
だからこそ、小さなスペースでの共生がちょうどいい。
畝のあいだ、果樹の根元、プランターのふちなど、限られた場所にデザインするのがコツです。

クローバーは、放っておいても育つ草です。
でも、共生とは放任ではなく、見守りの関係。
そのバランスの中で、自然と人のあいだに小さな循環が生まれます。
命を支配せず、けれど責任をもって共に生きる。
クローバー草生は、そんな“共生の哲学”を、庭の中で静かに教えてくれます。