食べてもすぐにお腹がすく、仕事中に眠くなる、そんな経験はありませんか。逆に、あまり食べていないのに太ってしまう人もいます。実はその原因は同じ場所――「食物繊維の不足」にあります。体の中でエネルギーをゆっくり循環させ、血糖値を安定させる食物繊維。この記事では、繊維がもたらす“時間のデザイン”を通して、心と体のウェルビーイングを取り戻す方法を解説します。
食べてもすぐに疲れる≒食べてないのに太る

食事は、心と体のウェルビーイング(幸福な状態)を支える大切な土台です。
けれども、現代の私たちはその“土台”がぐらついているかもしれません。
「食べてもすぐお腹がすく」「昼食後は眠くて仕事に集中できない」「夕方にはもう体がだるい」。
そんな経験、ありませんか?
逆に、「そんなに食べていないのに、なぜか太る」という悩みを抱える人も多いです。
実は、このような問題の根っこの部分は同じ原因で生じています。これらの不調は、単なる“食べすぎ”や“運動不足”だけでは説明できません。
体の中で、エネルギーが安定して供給されていない。つまり、食べた栄養がうまく使えていない状態です。
食事と健康のウェルビーイングを損なうこの不安定さのカギを握っているのが、「食物繊維」です。
食物繊維は、体の中に“ゆるやかな時間”をつくる

今の時代の食事は、とにかく「速い」です。
調理も簡単で、食べやすく、すぐにお腹を満たせる。ファーストフードのお店がたくさんあるので、忙しい現代人にとって、手軽に食べれて美味しい食事は欠かせなくなってきています。
でも、その“速さ”こそが、心と体のリズムを乱しているのかもしれません。
加工食品、精製小麦、清涼飲料水、スナック菓子――
これらに共通しているのは、食物繊維がほとんど取り除かれているという点です。つまり、高度に加工されている食品ですね。
それらは、糖質がすぐに吸収される「高速エネルギー食」になっている。
僕たち現代人の体の中では、血糖値がまるでジェットコースターのように急上昇し、そして急降下しています。これは、単純に食べる量などが原因ではなくて、加工された食品が根本にあるます。私たちの体は「上がって落ちる」を一日に何度も繰り返しているのです。
食物繊維は、その“速すぎる食事”にブレーキをかけてくれる存在です。
体の中に“ゆるやかな時間”を取り戻す。それは、消化のペースを整え、心のリズムを穏やかにする自然のデザインでもあります。
なぜ疲れるのか:血糖値の波がつくる“エネルギーの乱高下”

僕たちの体の中では、食べたものが胃や腸を通り、糖や脂質、アミノ酸などに分解されて吸収されます。どんな食材も同じように吸収されるのかというと、違います。つまり食物繊維がちゃんと残っている食材と、取り除かれた食品では腸で糖質が吸収されるスピードが違うのです。
食物繊維の役割を一言で表すと、胃腸の中で“とろとろ”な状態になること。
食物繊維を多く含む食べ物は、胃の中で水分を吸収して膨らみ、とろみのあるゲル状になるんです。
この“とろとろ”が、食べ物が胃腸の中を進むスピードをゆるめ、糖が少しずつ体に取り込まれるようにしてくれる。そうなると、血糖値の上昇がゆるやかになり、体は無理なくエネルギーを使えるようになります。
一方で、食物繊維が取り除かれた食品や飲料水は違います。

清涼飲料水や白いパン、ラーメンなどは、イメージ的に説明すると“サラサラな液体のように”胃を通り抜け、すぐに小腸で吸収されます。
血糖値は急上昇し、体は慌ててインスリン(血糖値をさげるホルモン)を大量に分泌。
すると血糖値は今度は急降下し、だるさや眠気、イライラが襲ってくる。
この急激な波が何度も続くと、エネルギーのバランスを取るために自律神経もフル稼働します。
その結果、「常に疲れている」「気分が落ち着かない」「集中力が続かない」という状態に。体と心の不調は、実は血糖値のジェットコースターから始まっているのです
体の“ゆるやかさ”を取り戻す食物繊維

食物繊維がしっかり残っている食事では、糖の吸収がゆっくりと進みます。
エネルギーは長く続き、体が急にバテることがありません。
いわゆる“腹持ちが良い”状態になります。体力も持続する。
繊維がないとどうなるかというと、ゲル状、つまりトロトロにならないんです。
清涼飲料水、つまり砂糖水を飲むようなイメージです。水分はさらさらと消化管を流れて、腸内で一気に吸収される。すると、体に吸収される糖質が一気に増える。
体が“血糖値が一気にあがっている”と反応して、血糖値が上がり過ぎないようにする。すると、清涼飲料水や加工食品を摂取すると、直後は糖質で頭が冴えますよね。でも、長時間は持続せず、すぐにだるさがくる。
なぜ血糖値が急激にあがると体が反応するのかというと、その瞬間、体に必要な量以上のエネルギーは不要なので、体に蓄えようとするからです。
つまり、脂肪として蓄えられるんです。これがすぐに太るの正体です。
食品が加工されるってどういうこと?
こんなふうに食べる食品に繊維があるかないかで大きく違うんですが、現代の食事はこの繊維が摂りにくいのです。味、保存性、見た目、食べやすさに特化したのが加工食品です。加工された食品というのは、大多数がしっかり加熱されているし、口当たりをよくする(咀嚼しやすい)ために繊維を取り除きます。

例えば、普通にみかんを食べるのと、100%みかんジュースを飲むのでは体への影響は違いたす。たとえそれが100%生絞りだとしても、繊維質が取り除かれた瞬間、私たちの体は一気に吸収するんです。同じ糖でも、体の感じ方はまるで別物なんです。
加工の度合いっていうのは実はわかりやすくて、“歯ごたえや、噛みやすさ”。
お米でいえば玄米は加工が少ないし、白米は加工が多い。小麦に関しても、全粒粉は繊維を残しているけど、麺類や普通のパンは繊維が大部分取り除かれている。つまり植物としての“殻”とか“皮”が取り除かれているということです。殻が皮が残っている食材は歯ごたえがあるし、咀嚼しにくいんです。
普段の食生活でそこまで考えてたべるのは難しいので、ひとまず意識だけ持ってみるのがいいのではないでしょうか。繊維質が残っているものは芯のある歯ごたえがあります。繊維質が残っていない食品は、食べ終わるのが圧倒的に早いのです。
食物繊維は、心と体のビーイングを整える“設計材”

血糖値の安定は、感情の安定にもつながります。
焦りや空腹感が減り、呼吸が深くなる。
まるで体の内側に“静けさ”が生まれるような感覚です。
現代の食事は、美味しくて便利で、すぐにお腹を満たしてくれます。
でもその代償として、私たちは“速すぎる食事”に慣れてしまいました。
そのスピードが、心と体のリズムを乱している。
食物繊維を意識することは、単に健康法ではありません。
それは「ゆっくり生きる」という、生き方のデザインなんです。
ゆっくり噛んで、ゆっくり吸収して、ゆっくり感じる。
そうすることで、体の中に穏やかな時間が流れ始めます。
食物繊維とは、栄養ではなく“時間を生み出す素材”。
忙しすぎる現代にこそ必要な、ウェルビーイングの設計材なのです。


