“本当の安心”はお腹から湧き上がる。「凍結」と「安心」を司る2種類の副交感神経

ココロとカラダ学

自律神経の話はよく聞くと思いますが、ほとんどの場合「交感神経→興奮」「副交感神経→リラックス」というざっくりな分け方で理解している人が多いと思います。

では、こういう状態はどのように捉えると良いでしょうか。

〇一見落ち着いているのに、心がざわざわする
〇リラックスはしてるけど、心が動かない

実は、自律神経には「興奮モード」「リラックスモード」の他に、もう一つの要素があるんです。
それが、「安心モード」です。

リラックス(落ち着く)することと、安心することは、神経学的には微妙な違いがあるんです。

「一見落ち着いているのに、苦しい」の正体

多くの人は、自律神経をこう理解していると思います。

交感神経=興奮(戦う・逃げる)
副交感神経=リラックス(休む・癒える)

たしかに、この二軸の対比は理解しやすいです。
けれど、現実の私たちはこう感じています。

〇一見落ち着いているのに、心がざわざわする
〇リラックスはしてるけど、心が動かない

この対比だけでは、こうした複雑ないのちの状態を説明できません。

ここで重要なのは、
リラックス≒安心
というシンプルな構造ではないということです。

アロマ、マッサージ、旅行、サウナなどの「リラックスサービス」。
それらは体をゆるめても、心の安全を回復させるとは限りません。

この「静かな不安」や「空っぽな感覚」は、
交感/副交感の2つでは説明できない現象です。

ポリヴェーガル理論という新しい考え方が登場したのは、
まさにこの“説明できなかった領域”を解き明かすためでした。

副交感神経には、2つの顔がある

僕たちは「副交感神経=リラックス」というざっくりとした理解をしてきましたが、
実は副交感神経には、もう一段階深い仕組みがあります。

それが、
〇「安心の副交感」
〇「凍結の副交感」
という2つのルートです。

つまり、単純に「副交感=リラックス」ではないのです。
この2つの違いを理解することが、「なぜ落ち着いているのに苦しいのか」を解く鍵になります。

副交感神経は、脳の中心(脳幹)から全身の内臓に広がっていますが、
お腹側を通る「腹側迷走神経」と、背中側を通る「背側迷走神経」に分かれています。

【背側迷走神経】
凍結/防御 ― 命を守るための経路

【腹側迷走神経】
安全/つながり ― 安心を感じるための経路

背側迷走神経は、爬虫類の時代からある古い神経。
危険にさらされると、体を止め、心拍を落とし、エネルギーを節約しようとします。
つまり「凍結して守る」ためのリラックス。

一方、腹側迷走神経は、哺乳類になって発達した新しい神経です。
他者との「つながり」を通して安全を感じる仕組み。
こちらは「つながることで安心する」リラックスです。

つまり、“落ち着く”には2種類あるんです。


凍結モード ― 「落ち着いて見える」防御反応

背側迷走神経が優位なとき、人は静かで穏やかに見えます。
でもその内側では、心拍が落ち、呼吸が浅くなり、血流が減り、
体が生き延びるために「動きを止めている」状態です。

これはストレス反応の最終段階です。

ストレス
→ 戦うか逃げる(交感神経)
→ 凍結する(背側副交感神経)

戦うことも逃げることもできないとき、私たちは“凍る”ことで自分を守ります。
つまり、心を閉じることで自分を守っているのです。

このとき、こんなサインが出るかもしれません。

〇落ち着いているのに、涙が出ない
〇眠れているけど、休まらない
〇誰にも会いたくない
〇何を食べても美味しく感じない

背側迷走神経のリラックスは、
「体が安全を失ったときの静けさ」なのです。


安心モード 。 つながりが体を開かせる

人が本当に安心を感じるのは、
静かな場所にいるときでも、一人でリラックスしているときでもありません。

それは、「つながりの中で安全を感じたとき」に起こります。

この反応をつくっているのが、腹側迷走神経です。

進化の過程で、生き物たちは「生き延びるための3つの方法」を身につけてきました。

1. 凍結する(背側迷走神経):危険をやり過ごす。


2. 戦う・逃げる(交感神経):力で生き延びる。


3. つながる(腹側迷走神経):群れで守り合う。



魚や爬虫類の時代には、止まるか逃げるしかありませんでした。
でも哺乳類になって「群れで生きる」ようになると、
もうひとつの生存戦略が必要になったのです。

それが「関係性の中で安全を感じる力」。

他者の穏やかな声、やさしい表情、呼吸のリズム。
こうした“社会的なサイン”を感じ取ると、腹側迷走神経が働き、
心拍や呼吸が落ち着き、体が自然に開きます。

つながりこそが、神経の安心スイッチ。

背側迷走神経が「世界から身を守る静けさ」なら、
腹側迷走神経は「世界と再びつながる静けさ」です。

だから、どれだけ一人でリラックスしても、
つながりの感覚がなければ、体は“防御モード”のまま。
安心は孤独の中ではつくれません。

安心とは、他者との関係を通して神経が「もう大丈夫」と判断したときに生まれる。
それが、腹側迷走神経がもたらす本当のリラックスです。


Calm(静けさ)は Safety(安全)ではない。

僕たちは今まで「落ち着いている=安全」というざっくりとした理解をしてきました。

でも、背側優位の“静けさ”は、体の凍結反応かもしれません。

外側は静かでも、内側は緊張している。
リラックスしているのに、なぜか怖い。
何もないのに心がざわつく。

これが、背側優位の静かな不安です。
体は防御を続けているのに、意識では“平気”だと思い込んでいる。
このズレこそが、現代人の「生きづらさ」の正体かもしれません。


“本当の安心”をめざそう

世の中にはいろんな「リラックスを提供してくれるサービス」があります。
でも、それらは体をゆるめても、心の安全を回復させるとは限りません。

なぜなら、
本当の安心は「関係」の中でしか生まれないからです。

腹側迷走神経は、つながりを感じた瞬間から静かに反応し始めます。

だから、あなたの心を整える本当の条件は、
“つながりを感じること”なんです。