発酵食が腸にいい本当の理由|「外の菌」と「内の菌」が響き合う生命のリレー

ココロとカラダ学

内と外の菌が出会う場所

味噌、納豆、ヨーグルト。私たちの食卓に並ぶ発酵食が「体にいい」と言われるのは、単なる栄養の話ではありません。
発酵食を食べるというのは、体の“内側の菌”と“外の菌”が出会うということです。

外の世界で生きる菌がつくった生命の恵みが、体の中で暮らす腸内細菌と出会い、共鳴を起こす。
まるで二つの世界が、静かに握手を交わすような瞬間です。

その出会いこそが、私たちの心と体を内側から整えていくのです。

内の菌 ― 静かな世界を守る“秩序の番人”

私たちの腸の中には、100兆個以上の腸内細菌が棲んでいます。
彼らは、酸素のない暗く静かな環境で暮らす「嫌気性菌」。
私たち人間も息を止めたままでは長く動けないように、酸素のない世界ではできることが限られています。

腸内細菌も同じです。外の世界のように自由にエネルギーを生み出すことはできず、限られた資源の中で秩序を守り続ける存在なのです。

主に食物繊維やオリゴ糖など、比較的シンプルな分子を分解して暮らしています。
タンパク質や脂肪のような大きな分子は、分解するのが苦手なんです。
でも、彼らにも得意なことがあります。短鎖脂肪酸をつくって腸内を保護したり、セロトニンを生み出して僕たちの心を落ち着けたり。

つまり、腸内細菌たちは“たくさんのものをつくる”よりも、内なる世界の調和を守ることに特化した専門家なのです。

外の世界のような変化も、酸素もない環境。けれど、その静けさこそが、体の秩序を支えるために必要なバランス。
だからこそ、外の菌という、もうひとつの世界の力が必要になるのです。

外の菌 ― 変化を恐れない“創造の名人”

一方で、発酵の世界で活躍する菌たちは、酸素と多様な素材に満ちた外の環境で生きています。
麹菌、乳酸菌、酵母菌――彼らは風や光、湿度や温度の変化を感じながら、そのすべてを糧に“変化しながら生きる”ことを選んできました。

外の菌たちは、酸素を自由に使えるおかげで、より効率的にエネルギーを生み出すことができます。
その結果、人間や腸内細菌では分解できないようなタンパク質や脂質、デンプンといった複雑な物質まで、多彩に変換してしまうのです。

彼らの仕事ぶりはまるで料理人のようです。
素材をそのままではなく、熟成させ、変化させ、香りや旨味を引き出していく。

こうして生まれる乳酸や酢酸、アミノ酸、ビタミン――それらはすべて、生命が多様な環境で協力し合って生み出した“新しい栄養”なのです。

内の菌が“秩序を守る存在”なら、外の菌は“変化を生み出す存在”。
ひとつは静けさを保ち、もうひとつは動きをつくる。
その対照的な性質が、私たちの体の中でひとつのリズムを奏でています。

出会い ― 生命が手を取り合うリレー

発酵食を食べるというのは、体の外で働いた菌たちの“成果物”を、腸内細菌に届けるということです。

外の菌は、タンパク質や脂質を分解し、腸内細菌が扱いやすい形に“下ごしらえ”してくれます。
そして、それを腸内細菌が受け取り、さらに細かく分解し、体に吸収される形に仕上げるのです。

まるで、料理人と給仕のような関係です。
外の菌が素材を調理し、内の菌がそれを受け取って、体の中で「命の食卓」を完成させる。

このリレーの中で、腸内環境は整い、心身のバランスも保たれます。
それは単なる消化のプロセスではなく、生命と生命がつながる“共鳴の儀式”。

自然界の菌たちが生んだエネルギーは、私たちの体の奥で、再び命の循環へと姿を変えるのです。


結び ― “菌と生きる”ということ

発酵食は、体に良いから食べるものではなく、外の生命と共に生きるという行為そのものです。

菌たちは目に見えないけれど、彼らの働きが私たちの健康、感情、免疫、そして「生きている」という感覚そのものを支えています。

味噌をすくう手のひらの中に、ヨーグルトのひと匙の中に、外の生命と内の生命の長い対話が宿っているのです。